掌蹠膿疱症
掌蹠膿疱症
掌蹠膿疱症35名における漢方薬の治療効果 〜清熱利湿飲(せいねつりしついん)〜
掌蹠膿疱症とは?
みなさんは掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という疾患をご存知でしょうか?
掌蹠膿疱症とは、手のひらや足の裏に無菌性の水疱(膿疱)が繰り返し再発し、膿疱が裂けて皮がめくれ、皮膚の硬化というサイクルを繰り返す難治性の皮膚疾患です。
膿疱は無菌性のため、他の人に感染するということはありませんがはっきりとした原因はいまだに不明とされています。
治療法としてステロイド軟膏、ビタミンD3軟膏などの外用剤や、ステロイド内服、免疫抑制剤の使用なども試されていますがどれも理想的な治療法とは程遠いのが現状です。
漢方・中医学における掌蹠膿疱症の治療例
一方で、このように原因がはっきりしない疾患に対しては漢方治療が有効に働くことがあります。
ご存知のかたもおられると思いますが、漢方(中医学)の本場である中国では漢方専門の医科大学である「中医薬大学」という教育機関があります。
私の在籍していた上海中医薬大学、広州中医薬大学もその1つです。
そんな中医薬大学では、掌蹠膿疱症に関しての漢方薬による治療効果を示した論文が多数発表されていて、中には日本でも十分に応用できる論文もあり、私も普段の漢方相談に応用しています。
その中で今回は山東中医薬大学皮膚科において治療を受けた掌蹠膿疱症患者35名における「清熱利湿飲(せいねつりしついん)」という漢方薬の治療効果について紹介していきたいと思います。
清熱利湿飲による掌蹠膿疱症患者35例の治療
《臨床資料》
【患者情報】
35例の患者は、2001年6月から2003年5月までに山東中医薬大学付属病院皮膚科を受診した患者で、そのうち29例の患者は典型歴な臨床症状が見られ、残りの6例は皮膚組織の病理診断の上で確定診断となった。
【性別・年齢】
男12例、女23例で、年齢は29歳〜74歳で平均は43.7歳。
【病程】
1ヶ月から9年で、平均は2.6年
【皮損部位】
掌(手のひら)が11例で、蹠(足の裏)が5例、掌蹠(手のひら、足の裏)同時が19例
《治療方法》
●清熱利湿飲(せいねつりしついん)
竜胆草9g,黄芩15g、金銀花21g、土茯苓21g、生地黄15g、牡丹皮15g、赤芍15g、当帰12g、蒼朮9g、蒲公英15g、車前子15g(包煎)、沢瀉9g,甘草6g
・便秘がある場合:大黄6g(後下)を加える
・不眠を伴う場合:酸棗仁30gを加える
・痒みがひどい場合:白鮮皮30g、地膚子30gを加える
こちらの漢方薬を500mlの水で煎じて1日2回、朝夕に服用し、乾燥のひどい場合はヘパリンナトリウム外用剤を併用する。
【治療期間】
連続服用1ヶ月を1クールとし、2クール(2ヶ月)服用し観察する。
【効果判定基準】
・治癒:皮損部位が95%以上改善、痒み及び痛みの消失
・著効:皮損部位が70〜59%改善、痒み及び痛みの明らかな軽減
・有効:皮損部位が25〜75%改善、痒み及び痛みが改善に向かう
・無効:皮損部位の改善が25%以下、痒み及び痛みが変化なし
《結果》
35例中、全治癒22例、著効7例、有効3例、無効3例。
●治癒率:62.86%
●総有効率:82.86%
《副作用》
●軽度の下痢1例、軽度の胃部不快感1例。
●副作用発生率:5.71%
1例は冷たいままで食前に服用することで副作用が起こっていたため、温服後は消失した。
《再発状況》
治癒した22例中9例の患者を追跡調査したところ、2例が再発したが症状は軽度で再び治療したところ改善した。
《討論》
現代医学では、掌蹠膿疱症の病因(病気の原因)に関して未だ尚明確にはなっておらず、治療ではステロイド剤、免疫抑制剤、ビタミンA誘導体(トレチノイン)などが使用され良い治療効果も出ている。
しかしながらその一方で副作用も強く、容易に再発してしまうという問題点がある。
中医学においても、本病の病名は”掌蹠膿疱症”というが、その臨床表現は”涡苍(渦瘡)”の範疇を根拠としている。
また掌蹠膿疱症の病因病機は非常に複雑であるため、多くの学者によって作られた治療法は多岐にわたる。
例えば健脾去湿、解毒活血を弁証論治の主とした”付国俊”は、自ら作り出した「解毒袪湿湯(茯苓・薏苡仁・土茯苓・茵陳蒿・三稜・莪朮・白鮮皮)」を掌蹠膿疱症患者100例に用いたところ、総有効率は85%、治癒率55%という結果を発表している。
また”郭盾”らは五味消毒飲加減を32例に用いたところ、治癒18例、著効7例、有効6例、無効1例で総有効率は96.9%という研究を発表している。
これらから総合すると、本病(掌蹠膿疱症)の基本的な病因病機は、
①外感風湿熱邪
②鬱怒傷肝、横逆犯脾
③飲食不節、思慮傷脾
これらによって脾失健運となることで湿熱毒邪が内生し、さらにこの湿熱毒邪が皮膚に蕴結することで紅斑、膿疱が形成される。
湿熱毒邪の性質は”熱”であるため口苦、喉の渇き、煩躁易怒、便秘、舌質紅、苔黄腻、脈滑数など”熱”による症状を伴うことが多い。
よって証は湿熱毒邪蕴結に属し、治療法は清熱解毒利湿となる。
今回使用された「清熱利湿飲」は竜胆草・黄芩・山梔子・車前子・沢瀉などの清熱利湿剤、金銀花・土茯苓・蒲公英などの清熱解毒剤、生地黄・牡丹皮・赤芍などの清熱涼血剤、燥湿健脾の蒼朮、それに辛温の当帰から構成されている。
②清熱解毒:金銀花・土茯苓・蒲公英
③清熱涼血:生地黄・牡丹皮・赤芍
④燥湿健脾:蒼朮
当帰が加えられた目的は苦寒薬による胃への影響を防止する意味があり、また生地黄との組み合わせにより滋陰養血し熱勢および苦寒燥湿による傷陰を防止する役割もある。
甘草はこれらの薬を調和させる効能がある。
これらの生薬が組み合わさることで、熱を清し、毒を排泄し、湿を袪することが可能となり良い治療結果をもたらすのである。
《参考文献》
張春紅,杜錫腎,張春敏.清熱利湿飲治療掌蹠膿疱病35例.[J].中国中西医結合皮膚性病学雑誌,2004,3(2);109
彩り漢方薬局による考察
本文にも何度も出てきていますが、掌蹠膿疱症は西洋医学においては未だに原因ははっきりとしていません。
一方、漢方・中医学においては、今回の論文にあるようにその病因は”湿熱毒邪”であるという見解が多数で、実際の症状(再発性の膿疱、痒みなど)から考えてもそこに矛盾点はありません。
したがって、日本において漢方治療を行う場合も、多くはこの”湿熱毒邪”に対する方剤、つまりは清熱利湿、清熱解毒、清熱涼血の効能をもった漢方薬を適宜選べばよいのです。
しかし、残念ながら日本の多くのクリニックで用いられる保険適応エキス剤(ツ◯ラ、クラ◯エなど)には要となる清熱解毒剤(金銀花、蒲公英、土茯苓、大青葉など)が非常に少ないという問題点があります。
その点、我々のような自費で相談を行う漢方薬局では、先の清熱解毒剤(金銀花、蒲公英、土茯苓、大青葉など)が配合された製品を自由に扱うことができるため、中国とある程度同等の対応が可能です。
例を挙げると、
清熱利湿で「猪苓湯(チョレイトウ)」・「竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)など、清熱解毒で「艶ゴールド(ツヤゴールド):金銀花、大青葉、白花蛇舌草などが含まれた漢方製品」など、清熱涼血で「腸癰湯(チョウヨウトウ)」、「大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)」などを使用し、これに痒みがあれば地膚子(ジフシ)、苦参(クジン)などの清熱袪風止痒剤を加えるというような対応も可能となります。
・清熱解毒:艶ゴールド(金銀花、大青葉、白花蛇舌草などが含まれた漢方製品)など
・清熱涼血:腸癰湯、大黄牡丹皮湯など
・清熱袪風止痒:地膚子(ジフシ)、苦参(クジン)など
また掌蹠膿疱症は自己免疫が関連することが最近示唆されており、当薬局ではこれらの漢方薬に加え、免疫のバランスを調節する紫霊芝(ムラサキレイシ)の入った漢方製品を併用し、よい効果を上げています。
まとめ
以上、掌蹠膿疱症35例についての中国における漢方治療の効果をまとめてみました。
日本では難治性の皮膚疾患の一つですが、有効率80%という数字はさすが漢方・中医学の本場ですね。
私も少しでもこの数字に近づけるよう努力していきたいと思います。
掌蹠膿疱症については他にも中国での論文が多くあるので、今後もどんどん翻訳し、紹介していく予定です。
もし、「掌蹠膿疱症の漢方治療について聞いてみたい」という場合は、LINE@やお電話の方からいつでもお気軽にご連絡ください。
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彩り漢方薬局では今後も新しい情報が入り次第、随時ブログの更新を行っていきます。
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