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肝気虚についての考察 〜疲れやすいが食欲はある方の治し方〜
先週水曜日に毎月恒例の薬膳の専門家をお呼びしての中医学・漢方勉強会を行いました。
今回のテーマは”肝気虚”について。
倦怠感=脾気虚とは限らない
中医学や漢方をある程度勉強されたことがある人でもこの”肝気虚”という言葉はあまり馴染みのあるものではありません。
実際”肝気虚”という言葉はなんとなく聞いたことがあるけどその病証は?、となるとはっきりとした答えはわからない方がほとんどかと思われます。
その理由としては
- ①中医学の教科書にあまり記載されていないためあまり馴染みがない。
②”肝気虚”は実際には単独で存在するのではなく、他の病証(肝血虚・胆気虚・腎陽虚など)と併存することが多いため”肝気虚”単独で弁証する機会が少ない、
などが理由として考えられます。
では”肝気虚”は知らなくてもいいのか?というとそうではなく、”肝気虚”を知っておくと個人的な見解ですが、実際の臨床において結構使えます。
特に「疲れやすい」、「しんどい」、「だるい」、「朝起きれない」といった倦怠感を中心に訴える一方で「食欲減退はあまりない」という方、このような場合、気血津液弁証でみると”気虚”というのはすぐに弁証できると思います。
気虚に使う代表方剤としては『四君子湯』『六君子湯』などがありますが、上記の症状の場合これらの方剤はことごとく効果がありません。(※補中益気湯は効果ある)
四君子湯、六君子湯が治せる臓腑は主に「脾臓」です。
ここでの脾臓とは、西洋医学の脾臓ではなく中医学的な脾臓(”消化吸収をおこなう機能全体”)になります。
つまり四君子湯、六君子湯は脾臓が衰えた「脾気虚」という状態に使う方剤です。
脾気虚とは脾の機能が低下した状態、つまり消化吸収の低下した状態なので、脾気虚の場合は殆どの場合において「食欲不振」を伴います。食欲が落ちているのでそれに付随して「しんどい」「つかれやすい」などの症状も当然でてきます。
しかしながら先に上げた症例では「倦怠感」はあるものの「食欲不振」については訴えていません。つまりこの症例では脾気虚はほとんどみられないか、あったとしても主要症状にはなりえないのです。
肝気虚とは
ではこのような場合どうするか?
こんな時に”肝気虚”の病理の本質を認識しておくと驚くほど即効性を得られることがあります。
肝気虚については当勉強会でたまに使用する教科書【中医学の基礎】にも残念ながら記載がありませんでしたが、中医学雑誌の【中医臨床】と【中医臨床講座】、【図説 漢方処方の構成と適応】の中にかなり詳細に書かれておりますので、詳しく知りたい方はこれらを参考にしてください。
これらの文献からまとめると、肝気虚とは肝の昇発機能、疏泄機能が低下することによって起こる症状のことで、3大主要症状として①だるさ・全身倦怠感、②朝の起床困難、③覇気の欠如、があげられます。この辺は「肝主筋」、「木気の昇発、条達」、「肝者,将軍之官,謀慮出焉」(※謀慮とは問題解決のための思考力のこと)などから機序がわかります。
また肝気虚の患者は食欲減退はあまりみられず、ほぼ正常あるいはむしろ亢進する場合が多く、特に甘いものをひたすら間食する傾向があるとのこと。この原因としては肝気低下による木不克土、あるいは菓子類などの糖質過剰摂取による土侮木などで説明がつきます。
肝気虚に用いる生薬
肝気を補うとはつまり肝気の昇発を助けることで、主薬としては気虚の代表生薬である人参ではなく、黄耆を用いるとされています。人参の場合は気の全体的な量の不足のときに使用され、肝気虚の場合は気の量的な問題はみられず、気の上向き外向きのベクトルの低下が中心であるため、補気昇陽の黄耆のほうが適しているというわけです。
さらにこれに”辛味”の生薬である桂枝・細辛・生姜などで発散性、昇発性を補助します。
肝気虚に対する方剤①
【中医臨床】では、肝気虚に対する処方として『起肝湯』という方剤を紹介しています。
●起肝湯
構成:黄耆20g,桂皮12g,細辛4g,乾生姜8g,麦芽8g,炙甘草6g
・眼精疲労など(肝血虚):加当帰
・決断力不足・不眠・関前短脈(胆気虚):加酸棗仁
・腰・下半身冷え(腎陽虚):加炮附子
・食欲不振・軟便(脾気虚):加人参・白朮
・不安感、動悸(心気虚):加茯苓・人参
肝気虚に対する方剤②
【図説 漢方処方の構成と適応】では『黄耆建中湯』および『桂枝加黄耆湯』を肝気虚に対する方剤としてあげられています。
●黄耆建中湯
構成:黄耆4g,炙甘草2g,大棗4g,膠飴10g,桂皮4g,乾生姜1g,白芍6g
・補肝気:加黄耆末or玉屏風散(エキス剤のため)
まとめ
以上、肝気虚について簡単にまとめてみました。
実際の臨床例でいえば、起立性調節障害などの場合にこの”肝気虚”を中心とした弁証でうまくいくことが多いです。
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