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漢方薬局開業日記その10〜上海中医薬大学本校編②講義編〜

2019-06-05

前回で上海での生活について少し書いたが、本日は上海中医薬学で行われた実際の講義の内容についてを紹介していきたい。

大まかな上海中医薬大学留学中の講義スケジュール

ざっと書くと、大きく前期(2月〜7月)と後期(9月〜1月)の2期にわかれており、8月は夏休みで授業はない。

前期は主に講義中心で、後期はもちろん講義もあるが、それ以上に病院での臨床研修の時間が多く取られていた。

講義をしてくれた先生は、ほぼ全員日本留学の経験があり、日本語がとても堪能であったため、授業に関しては言葉に不自由するということはほとんどなかったように記憶している。

時間割は月〜金の9:00から16:45で1講義90分の授業であるが、前期などは午前だけ授業という日も多く、自由な時間は割と多い。


(2011年2月〜6月までのスケジュール)


(2011年6月〜11月までのスケジュール)

その間の自由な時間は各自各々過ごし方は違うと思うが、私の場合は殆どスタバで中医学の勉強をしていた。

ちなみにどうでもいいことだが、留学中は365日、ほぼ毎日スタバに通っていたので、その店舗での個人売上は確実にトップだったと自負している。

各講義が終了すると必ず確認テストがあり、全て卒業時の成績として扱われる

また卒業の条件として、1つの論文、いわゆる『卒業論文』が必須となり、全講義の最終日に「卒論発表」がある。

私の代はその後すぐに卒業式が行われたが、このへんは毎年変わっているかもしれない。

これが1年間のざっくりとしたスケジュールになる。

実際の講義の内容

講義の内容だが、科目は「中医基礎理論」「中医診断学」「中薬学」「方剤学」「中医内科学」「中医小児科学」「中医婦人科学」という既に日本校で学んだことのある内容がやはり中心となる。

ただし、皆も経験あると思うが、本で読む学習と、実際講義で聴く学習では、理解するのにやはり格段に差がある

私も国際中医師試験などもあったため、日本で一通りは勉強していったつもりであったが、中医学の場合、中医での用語と現代医学の用語で一致しない部分がとても多く、日本で勉強をしている時には「とりあえず何となくこんな感じだろう」という風にして、うやむやにしたままの部分がたくさんあった。

なので実際に授業を聴いてはじめて「ああ、なるほど!」と思うところは実際にとても多かった。

古典の先生は日本でも有名な「張再良(チョウ サイリョウ)」先生

また、本校の授業では、日本ではなかった「古典」(もちろん中医の古典です)の授業がある。

『傷寒論』にはじまり『金櫃要略』、そして『黄帝内経』『温病学』という代表的なものを一通り学ぶ。

『黄帝内経』は内容が非常に膨大なので、触りの部分だけというような感じではあったが、『傷寒論』『金櫃要略』に関してはほとんどすべての条文を解説してくれる。

もちろん「日本漢方」的な解釈ではなく「中医学」の理論を用いた解説なので、ある程度「中医学」を学んだ者にとってはとても理解しやすいと思う。

また、この「古典」を担当する先生が「張再良」という日本でもとても有名な教授で、この先生の授業を一年間聞けるだけでも上海にくる価値はあるのではないかと思う。

日本でも張先生の「薬膳」の本は売られているが、『傷寒論』などの中医に関する内容の本はまだ翻訳されていないようなので、時間があれば私も是非翻訳してみたいと思っているが、しばらくは時間がなさそうなのでまた機会があればというところである(泣)


(張先生の診察室にて書籍と一緒に)

中医基礎理論はプレゼン形式

授業の進め方は、各先生によって異なっており、これが面白い。

「中医基礎理論」の先生は、何回か授業を行った後に各自15〜20分程度の「プレゼン」を課し、学習した中医基礎理論を用いて各自の興味のある疾患などを勉強させる。

私の代での留学者は5名しかいなかったが、その中でも「なるべく他の人よりいい物を!」と毎日授業が終わったあとにスタバで閉店まで頑張ったのをよく覚えている。

発表は黒板を使って説明するでもパワーポイントを準備するでも特に決められた形式はなかったが、準備はなかなか大変だった。

しかしながら、インプットした内容をアウトプットすることで、より自分が内容を理解でき、また「卒論」の練習にもなったので、この「プレゼン」方式はとてもいい勉強法だったと思う。

中医診断学は脈診マシーン

「中医診断学」の授業では「脈診マシーン」なる脈診の機械があり、中医の脈証である「弦・細・滑・数・・・・」などの脈証の典型例を学ぶ授業があった。

2010年の上海万博のときに展示されていたと言っていたので、割合新しいものかとは思われるが、やはり機械の脈証と、人間の脈証は全く異なるため、あくまで参考程度にしかならなかった。

確かに内容としては興味のある所ではあったがもう少し再現性の高いものが期待される。

ちなみに診断学の先生は大学院の博士課程まで「脈診」について研究されていたといういわゆる「脈診のスペシャリスト」なのだが、その先生でも「脈」のみで証を決めることは無理とのことだった。

時々「脈をみればすべてわかる」という人がいるそうだが、そんな時はまず「今まで何人の脈を診てきたか?」を聞いてみると良い。

診断学の先生によると「取り合えず5000人から10000人くらい診て、それで正常な脈とはどのような脈かがわかる。正常な脈がわかるようになれば、自動的に異常な脈がわかる。異常な脈がどのように異常かがわかるようになるにはそこからさらに経験を重ねる必要がある」ということだった。

つまりは最低5000人くらいの臨床経験が必要というわけだ。

中国の病院であれば1日で多くの患者の脈を見ることは可能で、実際に自分も実習の日は毎日数十人の脈を取らせてもらっていた。

しかしながら、日本での漢方薬局の場合は、店舗によっても異なるとは思うが、多くても一日20人程度の患者を見るのが限界かと思うのでなのでなおさら経験が積みにくい。

漢方相談にいかれる際、もし脈診を重視される先生にであった場合、一つの参考にしていただけたらと思う。


(中医診断学の鉏先生と)

まとめ

以上のように、上海中医薬大学の授業は、日本で中医学をある程度学習した方にとっても十分に役に立つ内容であった。

次回は残りの「講義編」を少しと「臨床研修編」をお届けいたします。

ではでは!