漢方薬局経営
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漢方薬局開業日記その7〜中医学との出会い:「方証相対」と「弁証論治」〜』
中医学とは
前回は、私の漢方の勉強は無意識ではあるが「日本漢方」から始まったということをお話した。
今日はその後から始めた「中医学」について話していこうと思う。
日本漢方は口訣による方証相対
「中医学」と「日本漢方」の違いはすでに多くの本やサイトでも紹介されているが、「日本漢方」の多くは「口訣」と呼ばれるもの(例えば〇〇のような症状がみられるときは〜湯を使う)をひたすら覚え、その「口訣」を参考にして一番その患者に合う方剤を探すことが主となる。
「口訣」とは昔の古典(『傷寒論』・『金櫃要略』など)に書かれている方剤を用いる、いわゆる「コツ」のようなものだ。
このようにして処方を決定していく方法を「方証相対」という。
例えば『虚証(体が虚弱)で貧血・腹痛・足冷え・むくみ・月経不順があるものには「当帰芍薬散」を使う』という感じである。
特徴としては、口訣にあるような症状であれば、たとえ病名がどのようなものであってもその方剤を使うことができるので、ある意味取り入れやすい方法と言える。
中医学は弁証論治
一方でその口訣にある症状が「どのようにして起こったか?」という作用機序(メカニズム)は、多くの場合省略されているため(というかわざと省略した)、理論的に説明できないことも多々ある。
実はこの部分を説明する時に「中医学」の知識、具体的には「中医基礎理論」を使うと、日本漢方ではなかなかうまく説明できなかったことがとてもうまく説明することができる。
中医基礎理論と聞くと、基礎とか初級の段階の話のように聞こえるかもしれないがそういうわけではなく、中医学を学ぶ上でのすべての土台、つまり”基礎”となる分野であり、方剤を勉強するにも、また中医内科学や中医婦人科学を学ぶ際にも必ず必要となるものである。
この中医基礎理論を用いいて患者さんの状態を判断するし、そこから導き出された方剤や生薬を用いて治療を行うことを”弁証論治”という。
漢方というと迷信やまじないのように思われている方も多いと思うが、実は「中医学」はとても理屈っぽい学問なのだ。
このように書くと「日本漢方は迷信」で「中医学は学問的」と思われる方もいるかもしれないが、単純にそうというわけではない。
日本漢方の達人は中医学の理論を既に理解した上で「口訣」にはあえてそのような詳細の説明は残さず、その他の人が使いやすいように簡素な部分だけを残してくれているのだ。
ただしその肝心な理論部分がわからないまま「口訣」を丸呑みしてしまうと、それこそ「下痢にゲンノショウコ」といった民間療法と大差ないものになってしまう。
日本漢方を高い次元で行うにはやはり「経験」が必須なのである。
冷え症で考える中医学の弁証論治
話が逸れそうなのでもとへ!
私が「中医学」を目指すことになったのはちょうど私の漢方の先生が病に倒れた頃、社長から冷え性の勉強をしてほしいということで「とある本」を読むように言われ、それを読んだのが始めであった。
その本は『家庭でできる漢方① 冷え症』という本である。
この本はその題の通り「冷え症」について書かれている本なのだが、とても論理的で体系的に書かれている。
実はこの論理的で体系的な考え方こそ「日本漢方」ではなく「中医学」による考え方だったのだ。
少し紹介すると、
「冷え症」とは「冷え」が存在している状態である
↓
「冷え」が存在する状態とはどのようなものなのか?
↓
言い換えるとそれはつまり「熱」がない状態のことである
という風になる。
この「熱」がない状態をさらに大きく分けると、
A「熱」自体が少ない場合(量的な問題)、B「熱」は足りているがそれがあるべき部位に供給されてない場合(運ぶ仕組みの問題)となり、これらをさらに細かく分析すると、
Aの「熱」自体が少ない場合は、さらに
①「熱」の産生不足
②「熱」の無駄遣い
B「熱」を運ぶ仕組みに問題がある場合は
①「熱」を運ぶ器が少ない
②「熱」を運ぶ器の流れが悪い
③巡りの障害物が多い
④巡りを先導する「気」が滞る
というように「冷え」が起こる原因を詳細に分析し、それぞれの分類によって最適の治療法があることを説明しているのが中医学なのである。
先ほど「日本漢方」での「当帰芍薬散」をもちいる時の症状の一つとして「冷え」があったが、そこにはこの「中医学」での分析でなされているような「なぜ冷えているのか?」の分析が詳しくは書かれていない。
経験豊富なベテラン漢方家なら「その奥」を読み取ることができるかもしれない。
しかし我々のような漢方の勉強をはじめたばかりの素人がいきなり「その奥」を読み取れと言ってもそれはなかなかできるものではないのは先に述べたとおり。
経験が未熟な漢方家で、なぜその症状が起こっているのかが知りたい人にとって中医学を学ぶことは非常に有益であると私は考えている。
理(理論)→法(治法)→方(方剤)→薬(中薬)
さらにもう一つ、中医学を目指すきっかけになったことがある。
この本を読んですぐの頃、名古屋で「日本漢方研究会」という「日本漢方」を主とする団体の学会が名古屋で開かれそれに参加した。
その中で「症例検討会」があり、「日本漢方」数人と「中医学」のDr(実はこのDrが先ほどの本の作者!)一人という形で、お互いが与えられた症例に対してどのように治療を行うかのを発表する形式の症例検討会だった。
ある症例に対して「日本漢方」の人たちは「この症例は『小建中湯』の証で〜」とか「過去にこれは『小柴胡湯』がよくきいたので〜」などその症状がどのようにして起こったのかにはほとんど触れず、自分たちの過去の経験を用いて「何かの方剤」に、言い方は良くないが無理矢理合わせているような感じを受けた。
つまり「方剤」と「症状」を相せる「方証相対」である。
一方、その中医学のDrは症例中のそれぞれの症状がなぜ起こったのかを「中医学基礎理論」を用いて分析し、その状態を改善するのに必要な「治療法」を導き、その「治療法」を実現するために必要な「方剤」を選択肢し、その他の症状に合わせて適切な「中薬」を加減する、といったプロセスを細かく説明してくれた。
「理(理論)→法(治法)→方(方剤)→薬(中薬)」、いきなり「方剤」から考えるのではなく、まずその症状から中医基礎理論を用い「証」を決め、その「証」に対する「治療方法(治法)」を導き、「治法」に適応した「方剤」を作り出す。
これが中医学最大の特徴の一つである「弁証論治」なのである。
この「症例検討会」を経験することにより、自分には「中医学」の方が適していると確信し、本気で「中医学」を勉強しようと決めたのであった。
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