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帯状疱疹に対する漢方治療その③ 〜朱仁康臨床経験集より〜

2019-10-25

61歳男性の帯状疱疹における漢方治療

●初診1974年8月31日

【主訴】:右側額部の痛みが2週間続き、紅い水疱が出現して1週間になる。

【現病歴】:2週間前、右側の額部に刺されたような痛みがおこり、同じ右側の顔面部にまで痛みが及び、痛み止め服用するも未だに痛みコントロールできていない。1週間前右のこめかみに小疱が現れ、ほんのりとした赤みで焼け付くように痛い。小疱は鼻先から右上唇まで及んでおり、痛みはまるで針に刺されたような痛みでいてもたってもいられないほど。ある病院でビタミンB12の筋注を五回、オーレオマイシンとモロキシジンを服用するも未だに痛みは制御できていない。高血圧(170/120)で肺気腫の病歴がある。口渇思飲、大便乾燥、小便は黄色い

【検査】:右側顔面の額部、頬部、上唇にかけて大豆ほどの水疱がみられ、上下の眼は腫れのため開けられない。脈弦細、舌紅苔黄。

【中医診断】:蛇丹

【西医診断】:帯状疱疹

【証属】:湿熱上壅、化火化毒。

【治則】:清熱除湿、瀉火解毒

【薬用】:馬尾連6 黄芩9 大青葉15 蒲公英15 馬歯莧60 牡丹皮9 赤芍9 延胡索9 生甘草6 水煎服

(外用)玉露膏

●二診:9月3日、3日分服用後の再診では紅腫が消えており、痛みも明らかに軽減した。前方に紫花地丁15gを加え、馬尾連を6gから9gに増量し、さらに炙乳香、炙没薬を各6gずつ加えた。これをさらに3日分服用後は再診されなかったので追跡調査したところ、服用後すぐにかさぶたになり腫疼ともに軽減し、7日後には痛みもすべて治ったとのことだった。

※参考文献:朱仁康.朱仁康臨床経験集-皮膚外科.人民衛生出版社 2005.

彩り漢方薬局による考察

【部位は少陽胆経、邪は湿熱】

今回の症例も前回と同様、側頭部を中心とした部位から足少陽胆経、水疱や舌診(舌紅苔黄)などから湿熱が胆経に鬱阻しておこったもの考えられる。

【痛みに関する中医学的分類】

次に痛みに関する情報として「針に刺されたような痛み」とあるが、「中医学」では痛みの質からその原因をある程度推測することができる。

一般的には、

  1. ・寒:冷えてしびれるような痛み
  2. ・熱:焼け付くような痛み
  3. ・湿:重だるい痛み
  4. ・気滞:張ったような痛み
  5. ・瘀血:刺すような痛み
  6. ・血虚:しくしく痛む

などに分類できる。

【不通則痛(ふつうそくつう)の原則】

また中医学における痛みの基本的原則は「不通則痛」である。

具体的には

  1. ①体内における余分なものが経絡の通りを悪化させて痛みが起きる(実証)
  2. ②体内に必要なものが不足することによって経絡が通らず痛む(虚証)

というように、本来うまく流れることが通常であるもの(気・血・津液など)が何らかの原因(寒・熱・湿・気滞・瘀血・血虚・腎虚・・・)によってその通り道(血管・経絡・リンパ管など)が阻害され痛みがおこるというわけである。

【湿熱による瘀血】

今回の症例では「針に刺されたような痛み」というところから、先の分類に当てはめると「瘀血による痛み」ということが推測されるが、この「瘀血」は湿熱によって経絡が阻害されたためにおこった「瘀血」と考えるべきである。

つまり改善するためには、湿熱を除去しながら不通となった絡脈を涼血活血する必要があるというわけである。

瘀血に関するエキス方剤はいくつかあるが、今回の場合は「大黄牡丹皮湯」「腸廱湯」など清熱涼血消腫の方剤に「黄連解毒湯」などの清熱燥湿の方剤を合わせるとよいのではないかと考える。

舌黄苔、大便干より「茵蔯蒿湯」など清熱利湿剤も併用した方がいいかもしれない。

【瘀血=桂枝茯苓丸ではないことに注意!】

しかし「温経湯」「当帰芍薬散」などの温性の活血薬は使用を控えるほうがよい。

また活血剤として有名な「桂枝茯苓丸」だが、日本のエキスメーカの場合は本来「桂枝」であるところがすべて「桂皮」が配合されているため、温性がより強くなっており、助熱の恐れがあるため個人的にはあまりおすすめしない。※桂枝を使用しているメーカーは一社のみ

赤芍・牡丹皮といった清熱涼血の生薬も配合されているため問題ないと考えることもできるが、急性期にはなるべく助熱(熱を悪化させる)の恐れのある生薬は避けておく方が無難である。

もう一つ活血剤として有名な方剤に「桃核承気湯」と言う方剤がある。

先の「大黄牡丹皮湯」と処方構成はとても似ているが、この「桃核承気湯」にも桂枝(桂皮)が配合されている。

よって今回は「大黄牡丹皮湯」のほうが適しているとした。

ちなみに『温病条辨』という温熱邪気による症候をまとめた書物に「桃仁承気湯」という方剤があり、この方剤は助熱の恐れがあるとして桂枝が除かれ、赤芍・牡丹皮といった清熱涼血剤が加えられている。

こちらであれば今回の症例にはより適した方剤となる。